第1029回生物科学セミナー

サーモスペルミンによる維管束木部分化の制御

高橋 卓(岡山大学大学院自然科学研究科)

2015年06月03日(水)    16:50-18-35  理学部2号館 講堂   

サーモスペルミンは,低分子アミノ化合物であるポリアミンの一つで,スペルミンの構造異性体である。サーモスペルミンを合成できないシロイヌナズナの突然変異体は,木部組織の異常な増殖と茎の伸長欠損を示すことから,サーモスペルミンには木部分化を抑制する生理活性があることが明らかになっている。維管束分化はオーキシンによって誘導されるが,サーモスペルミンの合成もオーキシンによって促進されるため,木部の正常な形成にはオーキシンとサーモスペルミンによる負のフィードバック制御が働いていると考えられる。さらに,サーモスペルミンなしで茎の伸長が回復するサプレッサー変異体の解析から,サーモスペルミンが木部分化の抑制に関わる転写因子遺伝子の翻訳促進に関わることがわかってきた。一方,サーモスペルミンはスペルミジンから合成されるが,そのアンタゴニストとしてザイレミンを開発し,木部分化を促進する活性があることを確かめた。本セミナーでは,最近の研究から明らかになってきた,サーモスペルミンの作用機構について紹介する。
参考文献
Kakehi J, Kawano E, Yoshimoto K, Cai Q, Imai A, Takahashi T (2015) Mutations in ribosomal proteins, RPL4 and RACK1, suppress the phenotype of a thermospermine-deficient mutant of Arabidopsis thaliana. PLoS One 10: e0117309
Tong W, Yoshimoto K, Kakehi J, Motose H, Niitsu M, Takahashi T (2014) Thermospermine modulates expression of auxin-related genes in Arabidopsis. Front. Plant Sci. 5: e94
Takano A, Kakehi J, Takahashi T (2012) Thermospermine is not a minor polyamine in the plant kingdom. Plant Cell Physiol. 53: 606-616