第1028回生物科学セミナー

木部細胞分化にみる自律的な空間パターンの形成

小田 祥久(国立遺伝学研究所)

2015年05月27日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

細胞壁は植物細胞の形態および機能に必須であり、細胞表面における細胞壁の沈着パターンは時空間的に厳密に制御されている。セルロース微繊維等の細胞壁成分は細胞膜直下に並ぶ表層微小管に誘導されることにより、細胞全体に渡って適当な細胞壁パターンが構築されているが、そのようなパターンを作りだす空間的なシグナルの実体とはどのようなものなのだろうか。本研究では、螺旋、網目、孔紋などの規則的なパターンを形成して二次細胞壁を沈着する木部細胞をモデルとして、細胞壁の沈着パターンを制御する空間シグナルの解明に取り組んでいる。これまでにシロイヌナズナ培養細胞を用いた木部細胞分化誘導系を開発し、マイクロアレイ解析、ライブセルイメージング、さらには構成生物学的な手法も取り入れて解析を進めてきた。その結果、Rho型の低分子量ROP GTPase、および微小管の重合、脱重合に関わる因子を同定した。ROP GTPaseは細胞膜上で局所的に活性化し、表層微小管の脱重合因子を介して局所的に細胞壁の沈着を抑制していた。一方、活性化したROP GTPaseの周囲においては微小管の重合促進因子が表層微小管を増幅し、細胞壁の沈着を促進していた。これらの相反する表層微小管の制御経路は、新規のROPエフェクターを介して空間的に仕分けられており、両者が拮抗していることが示唆された。本研究により、ROP GTPaseの活性化/不活性化のバランス、および微小管の重合/脱重合のバランスにより細胞自律的に二次細胞壁の沈着パターンが構築される過程が見えてきた。本セミナーでは木部細胞における細胞骨格と細胞膜のダイナミックな挙動に着目し、細胞壁の沈着パターンを構築する空間シグナルの実体について最新の知見を紹介したい。

参考文献
Oda et al. (2015) Plant Cell Physiol 56, 277-286.
Oda and Fukuda (2013) Curr Opin Plant Biol 16, 743-748.
Oda and Fukuda (2013) Plant Cell 25, 4439-4450.
Oda and Fukuda (2012) Science 337, 1333-1336.
Oda et al. (2010) Curr Biol 20, 1197-1202.