公開ラボセミナー

フィードバックループのあるシグナル伝達中の情報熱力学

伊藤 創祐 博士(理学系研究科物理学専攻)

2015年03月13日(金)    17:00-18:30  理学部3号館412号室   

シグナル伝達は情報伝達が重要な役割を果たす生化学現象である。情報理論によると人工通信の正確さを特徴付ける量として、相互情報量などの情報の指標が知られている。この情報の指標はシグナル伝達系でも測定可能だが、人工通信でないシグナル伝達系での意味の理解はまだまだ進んでいないように思われる。
一方で物理学の分野では、熱力学と情報理論の関係の理解が近年急速に進んでおり、情報熱力学とも呼ぶべき分野が構築されつつある。熱力学第二法則という物理法則が情報を含む形で一般化されてきており、実験的には単純なコロイド粒子系で検証され、理論的にはシグナル伝達系にも適用可能になってきている[1]。
本研究は、情報熱力学の最新の研究を活用することで、シグナル伝達での情報の役割について理論的に考察したものになる[2]。我々の結果によると、フィードバックループのある適応のシグナル伝達系ではtransfer entropyと呼ばれる情報の指標が、シグナル伝達のノイズに対するロバストさの上限を与えることがわかった。さらにE.coli走化性のシグナル伝達は、熱機関的には非効率であるが情報-熱効率は高いことを数値的に示した。これらの結果を物理が専門でない方にもわかりやすく理解できるように説明したい。
[1] S. Ito and T. Sagawa, Phys. Rev. Lett. 111, 180603 (2013).
[2] S. Ito and T. Sagawa, (2014) submitted. (preprint) arXiv:1406.5810。