人類学演習・談話会

北海道の先史集団と宗谷海峡以北の考古学的遺跡の実情

福田 正宏 先生(東京大学 文学部 考古学研究室)

2023年06月09日(金)    16:50-18:35  理学部2号館201号室   

サハリン島から間宮海峡を越えてアムール流域に至る地域一帯は、北海道ないし北日本の先史人間集団にとっての移住・交流・交易の玄関口や回廊として、古くから注目されてきた。僅かな情報しかなかった先の冷戦期に比べると調査研究は格段に進んだが、本地域では今も新規遺跡の発見と発掘が調査の主軸で、遺跡の有無さえわからない時期や地域が多く残る。遺跡や遺物が「ある」ことの証明は容易だが「ない」ことの証明は至難である。全体的な変遷の把握と「拡大」に関する議論が優先され「縮小」の説明はされにくい。しかもロシア側の遺跡情報は年々増加している。このような事情が考古学者に巨視的な解釈や全体像の提示を躊躇させる。宗谷海峡以北に関しては、縄文人やオホーツク人の遺伝子学的故地、あるいは北海道アイヌ文化成立史の北方性の歴史的要因と目される地域として他分野からも注目を集めているが、現地の歴史・地理学的背景や地域研究の成果が正しく反映されていないことも多く、残念に思っている。その一因として、本地域の考古学に固有の上述した問題点があることも否定できない。

2020年以降、感染症拡大、政治関係の悪化と続き、彼我で国境線を越えた研究が極端に制限されている。その渦中、分野横断型研究の進展のためにも今ある情報を整理して、来る将来に備えたい。今回は、20年以上に及ぶトランスナショナル研究を通じて得た知見にもとづき、先史時代全般における北海道―サハリン・大陸間の関係史の大筋を説明する。

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<今後の予定>
6月  16日 金原 秀行 先生(荻原)
   23日 海部 陽介 先生
7月  7日 未定
   14日 未定