第1460回生物科学セミナー

GPCRの多様な機能:嗅覚受容体の新しいシグナル機構

中嶋 藍 助教(東京大学大学院薬学系研究科)

2023年06月01日(木)    13:30-15:00  理学部2号館201号室及びZoom   

G タンパク質共役型受容体(GPCR)は匂い、味、光といった外界の刺激や、ホルモン、神経伝達物質といった内因性の刺激を受容するセンサーとして働く。従って、これまでGPCR研究では、リガンドによる活性化とそれによって引き起こされる生命現象を理解することを目的として研究が進められてきた。一方、近年の研究からGPCRは外界に刺激となるリガンドがない状況においても低いレベルの基礎活性を持つことが明らかにされているが、その役割は不明であった。
我々は、GPCRの持つ多様な機能とそのシグナル機構について、GPCRの中でも約半数を占める多重遺伝子族である嗅覚受容体に着目し研究を進めている。一次嗅覚系において、嗅覚受容体はその名の通り、鼻腔奥に存在する嗅神経細胞において発現し外界の匂い分子の検出を担うが、個体の発生段階においては、神経細胞の運命決定、神経軸索の投射位置の制御という複数の機能を果たすことが明らかとなっている。これに関して、我々は遺伝子改変動物を用いた一連の実験から個々の嗅覚受容体が生み出す基礎活性や自発的な活動が細胞内での遺伝子発現を制御し、軸索端末に固有の分子コードを提示することで軸索の配線パターンを決定することを明らかにしてきた。
本セミナーでは、一連の嗅覚神経回路の発生過程を研究する中から見えてきたGPCRの新たなシグナル機構を説明するとともに、そのメカニズムの普遍性について議論したい。

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・男女共同参画委員会