第1440回生物科学セミナー

植物のもつ時間のばらつきと多様性の構造

小山 時隆 准教授(京都大学大学院理学研究科生物科学専攻植物学分野)

2023年05月24日(水)    16:50-18:35  理学部2号館223号室及びZoom   

ヒトに限らず生き物は太陽の動きや季節の変化に合わせて活動している。これらの周期的な生命活動様式を時間の視点から捉えることで、一般化した生命現象としての理解がある程度可能になる。1日を刻む概日時計は生き物の時間の使い方を左右する重要な装置として、原核生物/真核生物、従属栄養/独立栄養に関わらず広く見られる。概日時計の分子実態は生物ごとに異なるものの、どの生物においても細胞内に時計の発振装置を有しており、多細胞生物においても概日リズム現象は細胞自律的な時計(細胞時計)を基盤として動いている。細胞時計の均質性、精度、安定性、あるいは細胞時計間の相互作用が、細胞時計の集合体としての植物の時間の刻み方や使い方にどのような影響を与えているのだろうか?演者は植物の各階層(細胞、器官、個体、種など)の概日リズムの挙動を生物発光レポーター系を利用して観測してきた。これらの観測データの解析を通して、植物細胞が持つ時計の精度、器官内に生じる自律的な時間秩序、個体増殖時の自律的な時間生成様式、種内/種間の時計の多様性と生態学的意義などについて明らかにしてきた。ウキクサを主な材料にしたこれらの研究成果を中心に、ばらつきや多様性という視点から植物がもつ時間について議論する。

参考文献
Murnaka,Oyama (2016) Sci. Adv. 2: e1600500; Okada et al. (2017) Sci. Rep. 7: 317; Watanabe et al. (2021) Plant Cell Physiol. 62: 815-826; Nakamura, Oyama (2022) Plant Cell Physiol. 63: 421-432; Ueno et al. (2022) New Phytol. 233: 2203-2215; Isoda et al. (2022) Plant Cell Environ. 45: 1942–1953; Muranaka et al. (2022) iScience 25: 104634.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生進化研究室