第1438回生物科学セミナー

オキシゲナーゼが産生する生理活性代謝物の可視化

杉浦 悠毅 准教授(京都大学医学研究科附属がん免疫総合研究センター)

2023年04月26日(水)    16:50-18:35  理学部2号館講堂及びZoom   

NO、CO、モノアミン、プロスタグランジン、ステロイドホルモンなどの低分子シグナル伝達因子は、炎症をはじめとした生体内イベントのプログラムされた進行と収束をコーディネートしている。これらの小分子はすべて、オキシゲナーゼによって触媒される分子状酸素の添加反応によって生成されるものであり、質量分析を駆使した古典的な生化学的研究(J Biol Chem. 1957;229(2))によって見出されたことに、もう一度注目したい。

一方で、これらの低分子シグナル伝達因子のin vitroでの生理活性はよく研究されているものの、in vivoでの時空間動態(臓器内のどの細胞で生成され、拡散ー作用し、分解されるか)は、有効な分子イメージング技術がないために理解が進んでいない。私たちは、この技術的ギャップを埋めるために、高感度イメージング質量分析(IMS)を開発した。さらに上述のin vitroオキシゲナーゼ研究で用いられた重酸素(18O2)標識をin vivoに拡張してIMS研究に応用することで、生体内でモノアミンやステロイドホルモンを盛んに産生する、新規のセロトニン、またはアルドステロン産生細胞の同定を行なってきた。

本セミナーにおいては、最先端のIMS・メタボロミクス解析が切り開くin vivo代謝生化学について紹介する。第一に、神経伝達物質であるセロトニンの全身の産生動態を可視化することで、免疫細胞の活性化が脳内のモノアミン代謝を変化させ、最終的に強い炎症を持つ動物の行動変化を引き起こすことを示した研究について紹介する(Nature immunology 18 (12),1342-1352.75.2017)。次に、ヒト腫瘍切除検体で低分子シグナル(GABA)の微小環境を可視化することで発見した、免疫細胞間のGABAシグナルネットワークについても取り上げる(Nature 599 (7885), 471-476.2021)。

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・脳機能学研究室