第1457回生物科学セミナー

海洋生態系を支える珪藻の進化・繁栄の謎を未知の藻類「パルマ藻」から探る

桑田 晃(水産研究・教育機構 水産資源研究所)

2023年03月02日(木)    16:30-18:00  理学部2号館223号室及びZoom   

 現在の海洋生態系において、特徴的なシリカの殻を持つ珪藻は、最も繁栄している微細藻類である。珪藻の分布域は海洋全域にわたり、その多様性は海洋の微細藻類中で最も高く、光合成量も地球全体の20%以上と熱帯雨林に匹敵する。近年、珪藻の海洋生態系における重要性が注目され、珪藻研究が世界的に盛んになっている。現に珪藻数種の全ゲノム解読が終了し、多くの新しい知見が蓄積されてきている。しかしながら、地球上で珪藻がどのように出現し、現在の繁栄に至ったのか?その進化・繁栄過程については、未だに多くのことが不明である。
 珪藻の起源に関しては、1999年に亜熱帯域で発見されたボリド藻が、分子系統的には現在最も珪藻と近縁なグループであることが明らかとなったが、珪藻とは全く形態の異なるシリカの殻を持たない微小鞭毛藻であり、珪藻の起源は依然謎であった。一方、1976年にサイズは珪藻の1/10以下の2~5 μmと非常に小型ながら、珪藻に類似したシリカの殻を持つパルマ藻が北西太平洋亜寒帯域で発見され、珪藻と進化的に密接な関係を持つことが予想されてきたが、発見以来30年以上培養が確立できずパルマ藻の実体は全く不明であった。そのような状況下、2008年に我々は親潮域より世界初のパルマ藻の単離培養に成功した。得られた培養株を対象に電子顕微鏡による形態観察、分子系統解析および光合成色素分析を進めた結果、パルマ藻は、ボリド藻同様に珪藻と極近縁で共通の祖先を持つことを明らかにした。これは、珪藻の繁栄機構と進化過程の解明にとって格好の対照生物を手に入れたことを意味する。そこで我々は、生態学・生理学・藻類学・ゲノミクス・生物地球化学等の様々なアプローチにより未知の藻類「パルマ藻」の生物学的実体の解明をめざしてきた。
 本講演では、主な生育地である親潮周辺海域でのフィールド調査、培養株を用いた室内実験、メタゲノミクス、ゲノミクス等により明らかとなったパルマ藻に関する最近の知見を珪藻類との比較を視野に入れながら紹介したい。

参考文献
1.Ichinomiya M et al. (2011) Isolation and characterization of Parmales (Heterokonta/ Heterokontophyta/ Stramenopiles) from the Oyashio region, western north Pacific. Journal of Phycology 47: 144–151.
2.Ichinomiya M et al. (2016) Diversity and oceanic distribution of the Parmales (Bolidophyceae), a picoplanktonic group closely related to diatoms. ISME Journal 10: 2419−2434.
3.Kuwata A et al. (2018) Bolidophyceae, a sister picoplanktonic group of diatoms – A review. Frontiers in Marine Science 5: 3

*授業成績には反映されません。

担当:植物生態学研究室 問合せ先(itera@bs.s.u-tokyo.ac.jp)