濡木研公開ラボセミナー

クライオ電子顕微鏡構造から明らかになった新しいサブヌクレオソーム

野澤 佳世 准教授(東京工業大学 生命理工学院)

2023年02月16日(木)    16:00-17:00  理学部1号館中央棟340号室   

ゲノム情報は、ヌクレオソームを基本単位とするクロマチン構造の中に保存されており、通常ヌクレオソームはH2A、H2B、H3、H4、2分子ずつからなるヒストン8量体にDNAが左巻きに1.65回巻き付いた構造をとっている。一方、生体内にはサブヌクレオソームと呼ばれるヒストンの含有量やDNAの巻き付き方の異なる構造体が存在しており、クロマチンの高次構造とダイナミクスに多様性を与えている。特に、H3、H4ヒストン・タンパク質から構成されるサブヌクレオソームは、ヌクレオソーム形成に必要な中間体であることが知られており、その構造の解明が待たれていた。これまでH3-H4サブヌクレオソームは、ヒストン4量体にDNAが巻き付いたテトラソームを構成すると考えられていたが、本研究では、ヒトのリコンビナント・ヒストン・タンパク質を用いて、この複合体をin vitro再構成し、3.6 Åのクライオ電子顕微鏡像を得ることで、H3-H4サブヌクレオソームが、H2A、H2B非存在下でも、通常のヌクレオソームのようにヒストン8量体からなる安定な構造体 (H3-H4オクタソーム)を形成することを明らかにした (Nozawa et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.2022)。H3-H4オクタソームは通常のヌクレオソームに類似した概形を持つにもかかわらず、ヒストンのメチル化酵素やクロマチンリモデラーの足場となるアシディックパッチを持たないユニークなサブヌクレオソームである。また、生体内部位特異的タンパク質間架橋実験VivosXによって、H3-H4オクタソーム特異的なヒストン間相互作用であるH4-H4相互作用を出芽酵母内で検出し、その生体内での存在を示唆した。この研究を皮切りに、H3-H4オクタソームが新しいクロマチン基盤ユニットとして認知され、そのゲノム機能が解明される可能性がある。

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・濡木 理