第1411回生物科学セミナー

機能未知遺伝子の逆遺伝学的解析

中川真一 教授(北海道大学薬学部)

2023年01月24日(火)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

 ヒトやマウスのゲノムが解明されて以来、「生物を形作るパーツの記載は終了した、これからはシステムを理解する時代だ」、ということが声高に叫ばれ、タンパク質や核酸の動態を定量的に解析し、そこで得られたデータから新たな原理を明らかにする研究が盛んに行われている。しかしながら、我々は本当に生物を形作るパーツの全てを理解しているのであろうか?例えば、高等真核生物のゲノムからは大量のノンコーディングRNAが転写されているが、それらのうち詳細な機能解析の報告があるものは1%にも満たない。タンパク質をコードする遺伝子にしても、既知の機能ドメインを持たないものが2-3割は存在している。これらの機能未知遺伝子の変異体の中には胎生致死となるものも複数あることが分かっており、現在知られているパーツを組み合わせるだけでは細胞を作ることは出来ないのは自明である。興味深いことに、こういった「未だに機能がわかっていない変なタンパク質やRNA」は一次配列への機能の依存性が低く、強固な立体構造を取りにくいという共通の性質を示す。本セミナーでは、こういった、一次配列から機能を予測することが困難な「非ドメイン型バイオポリマー」の逆遺伝学的な解析について、最新の研究成果を紹介したい。

参考文献
Perdigao et al. PNAS (2015) Unexpected features of the dark proteome.
doi: 10.1073/pnas.1508380112
Deveson et al. Trends Genet (2017) The Dimensions, Dynamics, and Relevance of the Mammalian Noncoding Transcriptome
DOI: 10.1016/j.tig.2017.04.004

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・脳機能学研究室