濡木研公開ラボセミナー

発生生物学と幹細胞生物学のさまざまな問題に挑戦するテクノロジーの開発

谷内江 望 准教授(The University of British Columbia School of Biomedical Engineering (SBME) Faculty of Applied Science and Faculty of Medicine)

2022年12月05日(月)    16:00-17:00  理学部1号館中央棟340号室   

 動物の発生は1つの受精卵から始まり、細胞が次々と分裂するように進む。細胞はゲノムに定義された遺伝子発現回路を持っていて、細胞外部から得たシグナルがこの回路を通り、次の遺伝子発現状態を規定する。ここで細胞は外部にシグナルを放出したり、互いに接着して相互作用を形成したりすることでダイナミックに変わる。細胞は徐々に自己組織化し、作られた臓器は様々なネットワークを形成してより大きなスケールで相互作用するようになり、個体が形成されていく。

 1つの細胞から自律的に動物の体が作り上げられるプロセスはとても魅力的である。しかしながら、現代の生物学はこのようなシステムを限られた側面でしか捉えることができない。細胞の遺伝子発現状態などの内部状態を高解像度で捉える様々な計測技術は、大抵の場合において、「対象の破壊を必要とする」ために動物1個体などの比較的大きな生物システムがダイナミックに変化していく様子を分子・細胞レベルで計測することができない。

 この問題を解決するために、私達の研究室では (1) 細胞の経験するイベントを細胞内に搭載させたDNAの人工配列(DNAテープ)に記録していくDNAイベントレコーダーと (2) 特定の系譜を辿る細胞クローンをシステムから単離する技術を開発している。DNAイベントレコーダーでは搭載した受精卵から成獣を得たあと、それぞれの細胞のDNAテープをシークエンシングして、その配列情報から、ダイナミックな発生のイベントを再構築して観測することを目指している。クローン単離技術は、未だに多くの生物学がシステムを細胞集団の平均として捉える中で、シングルセルゲノミクスができることを拡張し、構成生物学的なアプローチで多様な生物学の課題を解決できる。合成生物学、ゲノム編集、生物情報科学、細胞工学、マウス工学技術などを横断的に組み合わせたアプローチ2つについて紹介する。

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・濡木理