第1431回生物科学セミナー

ゲノムの多様性から進化の歴史、表現系の多様性についてさぐる

齊藤 真理恵 准教授(ノルウェー生命科学大学)

2022年11月25日(金)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

 ゲノム解析技術の目覚ましい発展により、我々は生物の進化史や、表現型の遺伝的基盤を、これまでにない精度で明らかにしていくことができるようになりました。現代人や古代人類のゲノム情報からは、人類の進化過程に対する知見が次々と得られ、また、集団ゲノミクスやマルチオミクス解析によって、ヒトや様々な動植物の表現型を制御する遺伝的メカニズムについても、多くの知見が得られています。本講演では、近年のゲノミクスの進展、ゲノムの多様性から進化の歴史を調べる方法、ゲノムの多様性と表現系の多様性の関連を調べる方法、といったトピックについて、最新の知見や研究手法、今後の課題、発表者の研究成果を含めつつ概観したいと思います。また、海外(米国・欧州)での研究生活や、留学先の見つけ方、海外就活のプロセスについてもお話ししたいと思います。

 特に、講演者の下記の研究についてお話しします。
(1)ヒトの成長ホルモン受容体遺伝子(GHRd3)の部分欠失多型は、成長や代謝に関与するが、その進化の歴史や表現型や分子メカニズムは知られていません。我々は、比較ゲノミクスとマウスモデルを用いた実験により、この多型が資源の少ない先史時代において、エネルギーを節約するために有利にはたらいていたというモデルを提唱しました。
(2)ゲノム構造変異は、ヒトゲノムの多様性に大きな影響を及ぼしています。しかし、その進化の歴史はほとんど未解明です。我々は、26の集団の遺伝子型頻度データを同時に取り込み、類似性マトリクスに基づく解析をおこなうことにより、適応的な構造変異を推定する新しい方法を開発しました。
(3)ヒトのゲノムワイド関連研究(GWAS)データは、圧倒的にヨーロッパ人に偏っているのが現状で、非ヨーロッパ人では、ゲノムデータに基づく形質予測の精度が大幅に低下します。本研究では、この形質予測精度にどのような集団特異的な要因が寄与しているかを調べました。

参考文献:
https://www.science.org/doi/full/10.1126/sciadv.abi4476
https://academic.oup.com/mbe/article/39/3/msab313/6413645
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2022.10.21.22281371v1

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・ゲノム人類学研究室