第1424回生物科学セミナー

植物細胞の分化可塑性を制御する転写後遺伝子発現調節

大谷 美沙都 准教授(東京大学新領域創成科学研究科)

2022年11月10日(木)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

植物細胞は、刺激に応答して脱分化し新たな細胞種に分化するという分化の可塑性をもつ一方で、発生プログラムの中では、こうした可塑性を完全に捨て去り自ら細胞死を選ぶこともある。私たちは、こうした植物細胞の分化可塑性を制御する分子メカニズムに迫るため、植物細胞の分化可塑性の顕在化システムとして器官再生の研究を、また分化可塑性の喪失プロセスとして道管細胞分化研究を推進してきた。この中で、RNAプロセシングやタンパク質翻訳後修飾といった転写後遺伝子発現調節が、植物細胞の分化可塑性に重要であることを明らかにしている。例えばRNAプロセシング異常は植物細胞の脱分化および再分化を阻害し、結果として器官再生異常が引き起こされる。また、細胞内レドックスと直結するタンパク質S-ニトロシル化制御の異常は、オーキシンシグナリング因子や道管細胞分化マスター転写制御因子VND7の機能性をかく乱し、道管分化に影響する。さらに最近、RNAプロセシング異常が道管細胞分化プログラムと直接的に関連している新たな可能性も見出しつつある。上記を背景に、本講演では、植物細胞の分化可塑性は多層的な転写後遺伝子発現調節を介して制御されており、これによって環境や状況に適した植物機能発現が実現されているという仮説の検討を行いたい。

参考文献
Ohtani et al. (2013) Plant Cell 25: 2056–2069
Ohtani et al. (2015) J Plant Res 128: 371–380
Kawabe et al. (2018) Plant Cell Physiol 59: 17–29
Ohtani et al. (2018) Plant Signal Behav 13: e1428512
Ishizawa et al. (2019) Plant Cell Physiol 60: 1974–1985
Chiam et al. (2019) Plant Cell Physiol 60: 2000–2014
Pawittra et al. (2020) Plant Biotechnol 37: 311–318
Takayanagi et al. (2022) Plant Biotechnol 39: 329–333

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・生体制御研究室