第1402回生物科学セミナー

受精卵に秘められる謎を紐解く -エピゲノム・遺伝子発現の観点から-

石内崇士 准教授(山梨大学生命環境学部生命工学科)

2022年11月02日(水)    17:05-18:35  理学部2号館223号室   

あなたの誕生日はいつですか?もちろんこれに対する答えは1つで、われわれがお母さんのお腹から出てきた日である。しかしながら、厳密にはもう1つの誕生日を持っているということをわれわれはあまり意識しない。そう、一般的にいう誕生日よりもずっと前にわれわれは受精卵という1つの細胞として誕生している。そして、その1つの細胞を起点として細胞分裂や分化が繰り返され、結果としてわれわれのからだを構成するすべての細胞や組織ができあがっている。このように考えると、われわれの体の源である受精卵が特別な存在であることがぼんやりと浮かび上がってくる。これが、受精卵は全能性をもつ細胞であると言われる所以である。では受精卵は他の細胞と何が違っていてわれわれの体の源となり得るのか?残念ながらこのシンプルな疑問に対する明確な答えは今のところない。これに答えを導くには受精卵の性質をあらゆる角度から調べる必要がある。細胞の性質は多くの要素によって決定されるが、その中でも遺伝子発現とその制御は特に重要である。そこで私は、受精卵の遺伝子発現やそれを調節するゲノム・エピゲノム制御について研究を行っている。今回のセミナーではこれに関わるいくつかの研究を紹介したいと思う。

参考文献
1.Yano S et al. Histone H3K36me2 and H3K36me3 form a chromatin platform essential for DNMT3A-dependent DNA methylation in mouse oocytes. Nature Communications 13, 44440. (2022)
2.Sakamoto et al. Paternally inherited H3K27me3 affects chromatin accessibility in mouse embryos produced by round spermatid injection. Development, in press (2022)
3.Ishiuchi T et al. Reprogramming of the histone H3.3 landscape in the early mouse embryo. Nature Structural & Molecular Biology 28, 38-49. (2021)
4.Ishiuchi T et al. Early embryonic-like cells are induced by downregulating replication-dependent chromatin assembly. Nature Structural & Molecular Biology 22, 662-671 (2015)

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室