第1396回生物科学セミナー

低酸素状態のがん細胞における放射線抵抗性の分子機構を探る

橋本拓磨 助教(東北大学医学系研究科)

2022年05月25日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

放射線治療成績の向上のためには、低酸素環境下のがん細胞の放射線抵抗性を克服することが重要である。固形腫瘍では、不十分な腫瘍血管の成長により低酸素環境が生じる。酸素濃度1%未満の重度な低酸素環境下では、細胞は高い放射線抵抗性を示す。また、固形腫瘍の低酸素環境は同時に低栄養環境でもある。細胞は低酸素かつ低栄養環境に曝露されると、低酸素誘導因子HIF-1の蓄積を抑制するため、HIF-1の放射線抵抗性への寄与は限定的と考えられる。低酸素状態における放射線抵抗性は、どのような分子機構で制御されているのだろうか。
 私たちの研究室では、放射線治療の成績向上のための基礎的な研究を行っている。これまでに、重度な低酸素条件下ではDNA修復酵素であるATM・DNA-PKcsの発現が亢進および活性化すること、ATMの活性化はエネルギーバランスセンサーであるAMPK/転写因子Sp1によって制御されること、AMPKの抑制により低酸素状態の腫瘍細胞を選択的に放射線増感できることを報告した。低酸素・低栄養条件下においても、AMPKの発現は亢進し活性化する。今回のセミナーでは、これらの発見とともに、現在私たちが取り組んでいる研究テーマについても紹介させていただく。
参考文献
1.「放射線健康リスク科学」細井 義夫 (著), 神田 玲子 (著)(Amazon, Paperback版/ Kindle版)
2.Radiobiology for the Radiologist、Eric J. Hall (著)、(Lippincott Williams & Wilkins)

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・細胞生理化学研究室