第1391回生物科学セミナー

時空間的な遺伝子発現制御のしくみを探る

沖 真弥 博士(京都大学大学院医学系研究科創薬医学講座・特定准教授)

2022年02月10日(木)    16:00-17:30  Zoomによるweb講義   

多細胞生物の個体は様々な組織や細胞タイプから構成され、その多様性は時空間的な遺伝子発現によって規定される。これまで、特定の組織や空間領域で時々刻々と発現変化する遺伝子が見出されてきたが、その網羅的な検出や時空間的な制御機構の理解は難しい。
我々は遺伝子発現制御機構をデータ駆動的に解明するため、世界中で報告された全てのChIP-seqデータ(約14万件)を統合したデータベース、ChIP-Atlasを開発した。また最近、さらにATAC-seqデータ(約5万件)とBisulfite-seqデータ(約3万件)を追加し、エピゲノミクス統合データとしてリニューアルした。その膨大なデータを駆使し、各種組織の分化、遺伝的な疾患、また創薬に関わるマスター制御因子の探索を進めている。また我々は空間的な遺伝子発現を高精細に理解するため、光学と化学を融合した新規ゲノミクス技術、photo-isolation chemistry(PIC)を開発した。これは、興味のあるエリアに特定波長の光を照射すると、その照射領域だけの遺伝子発現プロファイルを取り出すことができる。これにより、脳やマウス胚における微小組織から、細胞内に存在するサブミクロンレベルの構造体に至るまで、エリア特異的な遺伝子発現プロファイルの取得に成功した。
本セミナーでは、データ駆動型解析と新規オミクス技術の両立で明らかになった空間的な遺伝子発現の制御機構について紹介し、さらに細胞分化や疾患原理の解明などへの応用について議論したい。
References
1. S. Oki, et al. ChIP-Atlas: a data-mining suite powered by full integration of public ChIP-seq data. EMBO Rep, 19(12), e46255, (2018).
2. M. Honda, et al. High-depth spatial transcriptome analysis by photo-isolation chemistry. Nat Commun, 12(1), 4416, (2021).
3.参考PDF(実験医学):https://is.gd/UnOAUP

*授業成績には反映されません。

学外で参加希望のかたは、info.kuroda-lab@bs.s.u-tokyo.ac.jpまでメールをいただければ、ZoomのURLを送付いたします。所属機関のメールアドレスでお願いいたします。個人のメールアドレスはお控えください。その際には、氏名と所属も合わせてお願いいたします。

担当: 理学系研究科 生物科学専攻 生物情報科学科 黒田研究室  黒田 真也