第1390回生物科学セミナー

疾患と老化に対抗する細胞の守護者オートファジー

吉森 保 教授(大阪大学大学院 生命機能研究科/医学系研究科 教授(栄誉教授) 生命機能研究科長)

2021年12月16日(木)    14:00-15:00  Zoomによるweb講義   

オートファジーとは、細胞内部に形成される膜構造オートファゴソームによって細胞質の物質や構造を囲い込み、リソソームで分解する細胞機能である。その分子基盤や生理的意義は永く謎のまま残されていたが、1993 年の大隅良典現東京工業大学栄誉教授による酵母オートファジーの分子機構解明がブレイクスルーとなり、この10年ほどの間に爆発的に理解が進んだ。大隅博士はその功績により2016年ノーベル医学生理学賞を受賞した。
 最近の研究進展によりオートファジーは細胞内浄化による細胞の恒常性維持を通して多岐に亘る疾患を抑制し、さらには寿命延長に関わることが明らかになってきた。演者は1996年の基礎生物学研究所における大隅研立ち上げに助教授として参加し、大隅博士の発見を哺乳類に拡大し分野発展の礎を築いた。演者によるオートファゴソーム結合タンパク質LC3の同定は、オートファジー動態のイメージングや定量化を可能にし、世界における研究進展に寄与した。当該論文の被引用数は6,000を超え分野で1位である。
 我々は、オートファジーが細胞内に侵入した病原性細菌の排除を行うことを世界に先駆け報告し、その解析から選択的なオートファジーが存在することも明らかにした。また障害を受けたリソソームを除去する選択的オートファジーを新たに見出し、それが高尿酸血症性腎症の抑制に重要であることを示した。最近では、LC3の非オートファジー機能による損傷リソソーム修復の新たな制御経路を発見している。
我々が同定したオートファジー抑制因子Rubiconの増加が高脂肪食摂取による非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)発症の主要因であることを突き止めた。加齢によりオートファジーが低下することが知られていたが、この低下の原因は加齢に伴うRubicon増加であった。Rubiconの発現を抑制すると、寿命が延長するだけではなく、活動量の低下や腎線維化やパーキンソン病等の加齢性フェノタイプが抑えられた。オートファジーは様々な寿命延長経路の下流に位置しており、健康長寿を実現するためのターゲットとなりえる。
一方、脂肪細胞では加齢によりRubiconが消失し、オートファジーが過剰となる。脂肪細胞特異的Rubicon KOマウスでは、脂肪細胞のホルモン分泌に必要なタンパク質が分解され、代謝異常を来す。またセルトリ細胞のRubiconも、正常な精子形成に必要である。従って、一部の組織ではRubiconが正常機能維持に必須である。
これまでの成果を社会実装すべく大学発ベンチャーAutoPhagyGOを立ち上げ、創薬や食品開発に取り組んでいる。また、オートファジーに関する質の⾼い情報を発信し社会的受容を確保するためと産学連携を推進するために、社団法人日本オートファジーコンソーシアムを発足させた。このような学術研究以外の取り組みにも少し触れたい。

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・濡木理