第1373回生物科学セミナー

微生物で絶滅危惧植物を救う

奈良一秀 教授(東京大学大学院新領域創生科学研究科)

2021年09月07日(火)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

ほとんどの植物(特に樹木)は自身の根よりも、根に共生している菌類(菌根菌)を通して土壌養分を獲得して生きています。このため、植物の成長から生態系の物質循環、植生遷移のような大規模な生態的現象まで、菌根菌は見えないところで決定的な働きをしています。そして、最近私たちが研究している絶滅危惧樹木においても、その樹種だけに共生する新種の菌根菌が存在し、その樹木の更新に重要な役割を果たすことが分かってきました。また、林床の希少植物(ランなど)の保全においても、共生する菌根菌や森林全体の微生物環境の理解が不可欠になりつつあります。菌根菌という視点が加わることで、植物保全生態の見えてくる景色も変わる?
参考文献
奈良一秀・村田政穂 (2018) 絶滅危惧樹木を支えるキノコの発見:共進化した菌根菌が保全の鍵. 遺伝 72: 448-453.
Sugiyama Y, Murata M, Kanetani S, Nara K (2019) Towards the conservation of ectomycorrhizal fungi on endangered trees: native fungal species on Pinus amamiana are rarely conserved in trees planted ex situ. Mycorrhiza 29: 195-205.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物生態学研究室