第1381回生物科学セミナー

脳老化機構の解明:普遍性と多様性の視点から

久恒辰博 准教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

2021年06月09日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

脳神経の機能は、すべての生物種を通じて、加齢により徐々に低下する。しかし、この機能低下の原因は、意外なほど判っていない。私たちは加齢動物や疾患モデル動物研究を通じて、脳機能が加齢に伴い低下する機構の解明に取り組んできた。特に、アルツハイマー病モデルマウスを用いた研究から、脳内における慢性的な炎症反応が脳機能低下の主な原因である可能性を見出した。また、学習行動中のマウスの脳活動をfMRIで計測する方法を開発し、アルツハイマー病モデルマウスの脳活動変化を描出することにも成功した1)。加えて、高齢者での介入試験を実施し、脳の炎症反応を抑える作用を持つ低分子の摂取により、高齢者の記憶機能低下が抑制できることを認めた。加齢に伴う脳機能の低下に脳の慢性炎症(「神経炎症」)が関与すること、そしてこの炎症反応をうまくコントロールすることができれば、脳老化を回避できる可能性があることを見出した2)。本セミナーにおいては、全ての生物種(線虫、ハエ、マウス、ヒト)に普遍的に生じる脳老化の機構と、動物種に固有の仕組みについての内容を織り交ぜて、最新の知見についての概説を行う。

参考文献
1) Sakurai, K., Shintani, T., Jomura, N., Matsuda, T., Sumiyoshi, A., Hisatsune, T. (2020) Hyper BOLD Activation in Dorsal Raphe Nucleus of APP/PS1 Alzheimer’s Disease Mouse during Reward-Oriented Drinking Test under Thirsty Conditions. Scientific Reports, 10, 3915.
2) Masuoka, N., Lei, C., Li, H., Inamura, N., Shiotani, S., Yanai, N., Sato, K., Sakurai, K., Hisatsune, T. (2021) Anserine, HClO-scavenger, protected against cognitive decline in individuals with mild cognitive impairment. Aging, 13, 1729-1741.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・ 飯野研究室
※このセミナーは日本語で行われます。 This seminar will be conducted in Japanese.