第1380回生物科学セミナー
哺乳類におけるヒストン修飾の経世代伝承
井上 梓 博士（理化学研究所 生命医科学研究センター）
2021年05月10日(月) 16:00-17:30 Zoomによるweb講義
哺乳類の配偶子のエピゲノムは受精直後に大規模に初期化される。この初期化を免れて次世代に伝承されるエピゲノムとして、ゲノム刷り込み制御領域等のDNAメチル化が唯一知られていた。我々は近年、マウスにおいて、卵のヒストンH3リジン27番目のトリメチル化修飾（H3K27me3）が初期化を免れて次世代に伝承し、胎盤特異的に刷り込み遺伝子発現を制御することを見出した1,2,3。そして、伝承性のH3K27me3の確立には卵母細胞において非典型ポリコーム抑制複合体1（PRC1）によるヒストンH2Aモノユビキチン化修飾（H2AK119ub1）が必要であること、また、伝承性H3K27me3の欠落は次世代の胎盤の過形成を引き起こすことを明らかにした4。このことは、卵のヒストン修飾の変化がDNAメチル化非依存的に次世代の胎盤に影響することを示しており、これまでゲノム配列やDNAメチル化では説明できなかった母性遺伝現象をヒストン修飾の観点から説明できる可能性を提示する。本発表では、この一連の研究を紹介したい。
参考文献
1.Inoue A, Jiang L, Lu F, Suzuki T, Zhang Y. (2017)
Maternal H3K27me3 controls DNA methylation-independent imprinting.
Nature 547(7664), 419-24.
2.Inoue A, Jiang L, Lu F, Zhang Y. (2017)
Genomic imprinting of Xist by maternal H3K27me3.
Genes Dev 31, 1927-32.
3.Inoue A, Chen Z, Yin Q, Zhang Y. (2018)
Maternal Eed knockout causes loss of H3K27me3 imprinting and random X inactivation in the extraembryonic cells.
Genes Dev 32, 1525-36.
4.Mei H, Kozuka C, Hayashi R, Kumon M, Koseki H, Inoue A. (2021)
H2AK119ub1 guides maternal inheritance and zygotic deposition of H3K27me3 in mouse embryos.
Nature Genetics 53, 539-550.
担当： 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室
