第1363回生物科学セミナー

発生発達期環境による健康寿命の伸縮機構

小幡史明 チームリーダー(理化学研究所生命機能科学研究センター)

2021年06月30日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

ヒトを始めとするほとんどの動物は、発生・発達期を経て成熟し、時間とともに老化する。疫学的な研究から、発生発達期の様々なストレスがなんらかの形で個体内に記憶され、その後の生命活動に影響を与えることが示唆されてきた。この現象は、Developmental Origins of Health and Disease(DOHaD)と呼ばれ、げっ歯類をもちいた動物実験などによってその現象が実証されてきた。DOHaD研究は、がんや糖尿病、心疾患など様々な老化関連疾患に影響する隠れた「環境要因」の理解につながるとして注目を集めているものの、その分子機構の理解は立ち遅れている。
我々は、発生発達期環境による"健康寿命プログラミング"の分子機構を、ショウジョウバエを用いて解析している。その中で、発生過程で一過的に暴露される栄養やストレスが、脂質代謝や腸内細菌を不可逆的に変化させることで、生体の寿命に影響することが分かってきた。本セミナーでは、幼少期の環境要因がどのように健康寿命に影響するか、最近の知見を交えて議論したい。

参考文献
Obata F, Fons CO, *Gould AP. Early-life exposure to low-dose oxidants can increase longevity via microbiome remodelling in Drosophila. Nature Communications 9, 975, 2018
Stefana IM, Driscol P, Obata F, Pengelly AR, MacRae J, *Gould AP. Developmental diet regulates Drosophila lifespan via lipid autotoxins. Nature Communications 8, 1384, 2017
Yamauchi T, Oi A, Kosakamoto H, Akuzawa-Tokita Y, Murakami T, Mori H, Miura M and *Obata F. Gut Bacterial Species Distinctively Impact Host Purine Metabolites during Aging in Drosophila. iScience 23, 101477, 2020

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室