第1360回生物科学セミナー

接木の研究を通して拓ける植物科学

野田口理孝 准教授(名古屋大学生物機能開発利用研究センター)

2021年06月02日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

 植物は私たち人間を含む地球上の生命を支える存在である。接木は、その植物を活用する技術の一つで、二千年以上も前から農業で使われてきた。二種類の植物をつなげて一つの個体として育てる技術で、病気に強い植物の根の上に農作物を接木することで、農作物を病気から守る方法として使われる。農薬の使用量を減らし、土壌生態系を保ち、環境負荷にも頑強な農業も、接木によって可能となるかもしれない。しかし、接木は近縁な仲間の間でしか行うことができない。本研究では、タバコ属植物が遠縁な植物でも接木できることを発見し、その能力発揮の原因を調べた。接木部位の形態学的な観察と分子生物学的な研究を並行して行った結果、細胞壁の主成分であるセルロースを溶かす酵素β-1,4-glucanaseが働くことが、接木の際の細胞・組織の接着に重要であることが明らかとなった。この機構は、タバコ属植物の接木だけでなく、他の植物が傷口を修復する場面でも認められた。さらに、寄生植物が宿主植物につながる場面でも同様の機構が寄生に重要であることも分かった。接木研究を通して、植物が傷を受けた際にその緊急事態をどのように乗り越えるのか、植物が潜在的に発揮しうる様々な応答様式について考察したい。

参考文献
Notaguchi et al., Science (2020) 369, 698-702.
Kurotani et al., Comm Biol (2020) 3, 407.
Kawakatsu et al., Plant Biotech (2020) 37, 451-458.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・発生進化研究室