第1342生物科学セミナー

時計回りの組織形成を支える集団細胞移動とその作動原理

倉永 英里奈 教授(東北大学生命科学研究科)

2021年01月22日(金)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

集団細胞移動は、初期胚の原腸陥入や血管形成、乳腺分岐の形成など発生過程において重要な役割を示す一方で、上皮性がんやメラノーマなどの浸潤や転移の過程においても観察され、生命活動の様々な局面に関与している。集団細胞移動がどうやって集団性を維持したまま移動できるのか、どうやって複数の細胞を同期させるのか、in vivoにおけるそのメカニズムは不明な点が多く残されている。
 ショウジョウバエ雄性外生殖器は、蛹期に360°回転という動的な形態変化を遂げるが、我々はこの回転運動が、外生殖器を取り囲む周辺上皮細胞集団が、時計回りに集団移動することで成し遂げられることを明らかにした1。またこの移動は、接着結合(adherence junction: AJ)に集積したアクトミオシン(アクチン・ミオシンII複合体)の生成する収縮力によるAJのつなぎ替えが、個々の上皮細胞が持つ左右非対称な平面極性(キラリティ)に従って誘導され、その結果として細胞陥入による斜めの細胞配置換えが連続的に起こることで駆動されることが、実験と数理モデルにより示された2。一方で、細胞陥入の際には、AJのつなぎ替えにより接着面が90度回転されるため、一旦逆のキラリティに変化してしまう。連続的な一方向の細胞陥入を維持するためには、AJのつなぎ替えと、その後のキラリティ修正を瞬時に起こすメカニズムの存在が推察される。細胞陥入プロセス(接着面の収縮・消失・新規形成と伸長)における関連分子の動態を詳細に解析した結果、収縮の際に接着面に集積していたミオシンIIは、接着面が消失した後もAJに蓄積し続けており、特に新規接着面の両端に位置するAJの3細胞接着結合(tricellular AJ: tAJ)へ強く集積していた。このtAJ上のミオシンIIを、光操作により特異的に不活性化すると、新規接着面の伸長が阻害された事から、接着面のAJで収縮を駆動していたアクトミオシンが、AJの消失によりtAJに再構築されて、速やかな新規接着面の伸長に寄与することが示唆された3。上皮細胞の集団移動を駆動する連続的細胞陥入の仕組みとその作動原理について、最新の研究成果とともに紹介したい。

参考文献
1, Kuranaga E, Matsunuma T, Kanuka H, Takemoto K, Koto A, Kimura K, Miura M. “Apoptosis controls the speed of looping morphogenesis in Drosophila male Terminalia.” Development 138, 1493-1499, 2011
2,Sato K, Hiraiwa T, Maekawa E, Isomura A, Shibata T, Kuranaga E. “Left-right asymmetric cell intercalation drives directional collective cell movement in epithelial morphogenesis.” Nat Commun 6, 10074, 2015
3,Uechi H, Kuranaga E. “The Tricellular Junction Protein Sidekick Regulates Vertex Dynamics to Promote Bicellular Junction Extension.” Dev Cell, 50, 327-338, 2019

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・武田研究室