第1358回生物科学セミナー

皮膚の再生・老化の謎に迫る

西村 栄美 博士(東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授)

2021年01月13日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

多細胞生物は、細胞を捨ててはあらたに補うことによってその恒常性を保っている。皮膚は、外界との境界面にあって様々なストレスや損傷に晒されており、細胞を活発に入れ替えながら個体を護り続けている。しかし、加齢に伴い白髪、脱毛、シミ、シワなど典型的な老化形質の発現と共にそのバリア機能も低下し、菲薄化・脆弱化する。なぜ、どのような仕組みで老化するのだろうか?私たちは、黒髪のもととなる色素幹細胞の発見に始まり、生体内での皮膚の組織幹細胞の運命に着目し、皮膚や毛髪の再生、老化、癌化の仕組みについて研究を進めてきた。毛包幹細胞の長期系譜解析から、加齢や様々なストレスによって幹細胞の運命が大きく変化し、その枯渇によって分化細胞の供給が不足すると、毛包が矮小化することが明らかになった。表皮においては、幹細胞がお互いに競り合い『細胞競合』という現象を引き起こして適応度の高い細胞を選択的に維持することにより長期にわたって皮膚の若さを維持していること、加齢によって細胞競合が減弱し老化形質が顕在化することが明らかになった。一連の研究から、組織幹細胞は、組織の維持や再生のみならず老化においても中心的な役割を果たしていることが明らかになりつつある。癌化との関連や分子メカニズムに触れ、最後に幹細胞運命を制御する技術の開発など、今後の展望についても紹介したい。

参考文献
1. Liu N, Matsumura H,…, Nishimura EK. Stem cell competition orchestrates skin homeostasis and ageing. Nature. 568 (752): 344-350, 2019
2. Matsumura H, Mohri Y, Binh NT,…, Nishimura EK. Hair follicle aging is driven by transepidermal elimination of stem cells via COL17A1 proteolysis. Science. 351(6273):575-589, 2016
3. Nishimura EK,…, Fisher, D.E. Mechanisms of hair graying: incomplete melanocyte stem cell maintenance in the niche. Science. 307(5710):720-724. 2005
4. Inomata K,…, Nishimura EK. Genotoxic stress abrogates renewal of melanocyte stem cells by triggering their differentiation. Cell. 137(6):1088-1099, 2009
5. Nishimura EK,…, Nishikawa, SI. Dominant role of the niche in melanocyte stem cell fate determination. Nature. 416(6883):854-860, 2002

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室