第1013回生物科学セミナー

DNAバーコードによる分子・細胞計測技術の跳躍

谷内江 望 准教授(東京大学先端科学技術研究センター)

2014年11月18日(火)    17:00-18:30  理学部3号館 4階 412号室   

癌をはじめとするヒトの疾患の細胞動態は単一の遺伝子やシンプルなパスウェイによって制御されるのではなく複雑に絡み合った分子間相互作用によって媒介されることが多い。このため細胞内の網羅的なタンパク質相互作用(インタラクトーム)も様々な条件下で高速に捉えることが非常に重要であるが、技術的な課題が多い。
次世代シーケンシング技術はパーソナルゲノムのインパクトとともに、短DNAリードを大量に解読できるという特性がDNAバーコードという考え方によって様々な細胞のフェノタイピングを高速化した。今回の発表では、はじめにハイスループットバイオロジーにおけるDNAバーコードの様々な利用に触れたあと、複数の条件下でインタラクトームや複数の因子が関わる細胞のフェノタイピングを高速に測定するために私達が開発した「バーコードフュージョン法」を紹介する。
バーコードフュージョン法を酵母細胞の高速DNAバーコード化とともに酵母ツーハイブリッド法のシステムに持ち込むことによって、数十の条件下におけるインタラクトームを一人の研究者が2週間で測定することができるようになった。また発表の後半には、DNAバーコードを利用して幹細胞分化、脳のコネクトームの発生やラボ内細胞進化といった不均質な細胞集団の動態や発生を一斉に1細胞レベルでトラックする手法、様々な生体分子バーコードが導入された細胞計測専用モデル生物の合成など生体分子バーコードを利用した様々な未来研究展望についても議論する。