第1352回生物科学セミナー

細胞内部の分子イメージングを目指して:超流動ヘリウム蛍光顕微鏡の開発物語

藤芳 暁 助教(東京工業大学 理学院)

2020年11月06日(金)    16:00-17:00  Zoomによるweb講義   

近年、生物顕微鏡の技術は飛躍的に進歩しています。しかし、その中にも、細胞内部にある個々の生体分子をナノレベルで画像化できる顕微鏡はありません。そこで、我々は2004年から、これを目標に、24台の超流動ヘリウム蛍光顕微鏡を独自開発していました[1-3]。気づけばたくさん作ってきましたが、満足のいくものは出来ていません。それでも、細胞外であれば、長さ10 nmの二本鎖DNAの両末端を1分子観察することに成功しました[4]。現在は、同等の空間精度での細胞内観察を目指しています。講演では、超流動ヘリウム蛍光顕微鏡の開発にまつわる話しからはじめて、最新の成果について紹介したいと思います。

用語の説明
超流動ヘリウム蛍光顕微鏡:試料を超流動ヘリウム中(−271℃)に浸して蛍光観察する顕微鏡

[1] 藤芳暁・藤原正規・松下道雄; Phys. Rev. Lett. 100, 168101(2008).
[2] 藤芳暁・平野充遙・松下道雄・伊関峰生・渡辺正勝; Phys. Rev. Lett. 106, 078101(2011).
[3] 古林琢・本橋和也・若尾佳祐・松田剛・喜井勲・細谷孝充・林宣宏・定家真人・石川冬木・松下・藤芳; J. Am. Chem. Soc. 139, 8990 (2017).
[4] 古林琢・石田啓太・樫田啓・中田栄司・森井孝・松下道雄・藤芳暁; J. Phys. Chem. Lett. 10, 5841 (2019).

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・濡木理