第1351回生物科学セミナー

植物の形づくりの基礎要因を器官の新⽣と再⽣に探る

杉⼭ 宗隆 准教授(東京⼤学⼤学院理学系研究科附属植物園)

2020年11月04日(水)    17:05-18:35  Zoomによるweb講義   

植物は⽣涯に亘って器官を作り⾜し続け、それが植物らしい姿・形を⽣み出すとともに、環境への柔軟な対応も可能にしている。また、傷害や組織培養などによって、本来の予定にはない部位に新たな器官が⽣じる、いわゆる器官再⽣が起きることも、植物では珍しくない。私たちは、こうした融通無碍で頑健な植物の発⽣、形づくりのあり⽅に興味をもち、器官新⽣・再⽣のいくつかの側⾯から、その基礎要因を探究している。
研究の柱の⼀つは分⼦遺伝学で、器官新⽣・再⽣に温度感受性を⽰すシロイヌナズナの変異体を多数単離し、それらを⽤いて様々な解析を⾏ってきた(1)。興味深いことに⼤半の変異体の原因遺伝⼦はRNA プロセッシングに関連した機能をもっており、例えばrRNA ⽣合成の不全はシュート再⽣に、ミトコンドリアmRNA の代謝不全は側根原基の形成に、それぞれ特異な影響を及ぼすことがわかった(2),(3),(4)。また、これらの解析の過程で、植物のリボソームストレス応答経路や、ミトコンドリアmRNA の編集とポリA 付加・分解の連関など、思わぬ発⾒もあった(3),(4)。セミナー前半では、シュート再⽣と側根形成について、こうした知⾒を中⼼に紹介する。
後半では、器官新⽣による巨視的パターン形成の例として、葉の配列(葉序)を取り上げる。主要な葉序パターンについては、葉原基発⽣位置の制御の数理モデルによって再現できることが⽰されているが、従来のモデルでは説明のつかない葉序もあった。私たちは、こうした⾮標準的な葉序の⽣成要件から、葉原基発⽣制御の枠組みを⾒直すことを試みている(5)。この試みによる成果を紹介するとともに、葉序研究の今後の展望についてもお話ししたい。

参考文献
(1) M. Konishi & M. Sugiyama: Development 130, 5637–5647, 2003.
(2) H. Tamaki et al.: Plant J. 57, 1027–1039, 2009.
(3) I. Ohbayashi et al.: Plant Cell 29, 2644–2660, 2017.
(4) K. Otsuka, A. Mamiya et al.: bioRciv https://doi.org/10.1101/2020.06.09.141382, 2020.
(5) T. Yonekura et al.: PLOS Comput. Biol. 15, e1007044, 2019.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・植物生態学研究室