第1340回生物科学セミナー

日本固有植物の自然史から迫る植物進化学

奥山 雄大 研究主幹(国立科学博物館筑波実験植物園)

2020年09月18日(金)    16:50-18:35  Zoomによるweb講義   

日本は世界の生物多様性ホットスポットの一つに数えられ、植物についても自生の維管束植物のうち、日本固有種(亜種・変種を含む)は約35%(2448種)をも占めます。このような植物の中でも特に、カンアオイ属カンアオイ節、テンナンショウ属マムシグサ節、チャルメルソウ属などは、系統群を構成する種の大部分が日本列島に固有分布することから、日本を多様化の舞台とした植物の代表であると言えます。本発表ではこのような植物に着目し、分子系統学、野外生態調査、花香成分の化学分析などから明らかになったその出自や多様化のメカニズムについて紹介します。
まずチャルメルソウ属の中でも日本固有種のほとんどを占める単系統群であるチャルメルソウ節(sect. Asimitellaria)について、多遺伝子を用いた分子系統学的手法によりその倍数性ゲノムの起源と、種分化の地史的過程を推論します。次に、チャルメルソウ属の最も興味を惹く点であるその奇妙な花の形態と多様性について、それが花粉媒介者であるキノコバエ類に適応した結果であることを示します。その適応は形態にとどまらず、花から放出される匂い成分の多様性にも及ぶことを示し、花の匂いの変化が送粉者の劇的なスイッチングをもたらし、種分化の引き金になったことを述べます。また種分化の要因となった遺伝的変異そのものを検出する試みなどを紹介します。この他に最近カンアオイ属やテンナンショウ属について明らかになった興味深い知見についても紹介し、日本固有植物の成立をより深く掘り下げ、総合的に理解するための新たな研究の展望についても議論したいと思います。

参考文献
Okuyama et al. 2020. Radiation history of Asian Asarum (sect. Heterotropa, Aristolochiaceae) resolved using a phylogenomic approach based on double-digested RAD-seq data. Annals of Botany 126: 245–260.
Kakishima et al. 2019. A specialized deceptive pollination system based on elaborate mushroom mimicry. bioRxiv, 819136.
Okamoto et al. 2015. Parallel chemical switches underlying pollinator isolation in Asian Mitella. Journal of Evolutionary Biology, 28: 590–600.
Okuyama et al. 2012. Entangling ancient allotetraploidization in Asian Mitella: An integrated approach for multilocus combinations. Molecular Biology and Evolution 29: 429–439.

担当: 東京大学大学院理学系研究科・附属植物園