第1347回生物科学セミナー

多能性幹細胞と分化制御

永樂 元次 教授(京都大学ウイルス・再生医科学研究所)

2020年07月27日(月)    16:50-18:35  Zoomによるweb講義   

ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞は、非がん化細胞でありながら無限に増殖し、かつ体を構成するあらゆる細胞に分化できる特殊な幹細胞である。原理的には多能性幹細胞を制御することで、臓器だけでなく個体全体を試験管内で作り上げることが可能である。しかしながら、多能性幹細胞からin vitroでの制御により臓器や体全体を作り上げる技術はまだない。脊椎動物の個体発生様式は数億年の進化過程を通じて獲得された最も効率の良くかつ頑強に臓器を形成するためのプロセスであるため、多能性を持った幹細胞の集合体から個体や臓器を作るための正解の手順はすでに自然界に満ちているということができる。私たちは多能性幹細胞を出発材料とし、その多細胞動態を観察し環境を適切に制御することで、これまでに神経オルガノイドをはじめとする様々な組織を誘導する技術を確立して来た。本セミナーでは多能性幹細胞の分化制御技術と、その背景にある脊椎動物の共通した発生システムの原理について議論したい。また最新のオルガノイド研究とその応用についても紹介する。

参考文献
Eiraku et al. (2008) Cell Stem Cell 3: 519-532
Eiraku et al. (2011) Nature 472: 51-56
Kadoshima et al. (2013) PNAS 110: 20284-20289
Okuda et al. (2018) Sci. Adv. 4: eaau1354
Mori et al. (2019) Nat. Comm. 10: 3802

担当: 東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・動物発生学研究室