第1344回生物科学セミナー

様々な生命現象を染色体の末端から紐解く

加納純子 教授(東京大学大学院総合文化研究科)

2020年04月02日(木)    16:40-18:10  理学部2号館 講堂   

 DNAや様々なタンパク質から構成される染色体には、タンパク質を産生する遺伝子領域以外に、染色体自体の機能や維持に必要な“染色体ドメイン”が多数存在する。染色体の末端のドメインであるテロメアは、特殊な繰り返しDNA配列をもち、生命維持に重要な役割を果たしていることが知られている。我々はこれまでに、分裂酵母におけるテロメア結合タンパク質複合体(Shelterin)の構成因子を同定し、なかでもRap1がテロメアDNA長維持や細胞分裂期の染色体動態制御などにおいて中心的な役割を果たすことを明らかにしてきた。
 一方、テロメアに隣接してサブテロメアと呼ばれるドメインが存在する。サブテロメアはテロメアとは異なり、長大な共通配列がモザイク状に組み合わさった構造をとっており、様々な遺伝子を含む。この複雑な構造形態による実験手法的困難により、サブテロメア研究はまだ黎明期にあると言える。我々は、分裂酵母のサブテロメアでは二つの異なるクロマチン構造が形成され、それぞれにShelterinタンパク質やRNAi機構、セントロメアタンパク質が関与していることを発見した。また、サブテロメアの共通配列をすべて削除した株の作製に成功し、サブテロメアの様々な機能を明らかにした。さらに、シークエンスが非常に困難であるサブテロメアの全DNA配列を決定し、サブテロメアが非常に変化に富む、ゲノム進化のホットスポットであることを発見した。最近は、実験系をヒトや大型類人猿に拡大し、サブテロメアが進化、老化、がん化などの生命現象にどのように関わっているのかを明らかにしようとしている。