第1326回生物科学セミナー

植物細胞の増殖・分化・環境応答を制御するpre-mRNAスプライシング

大谷 美沙都 准教授(東京大学新領域創成科学研究科)

2020年05月20日(水)    16:50-18:35  zoomにて開催   

 pre-mRNAスプライシングは、真核細胞の遺伝子発現を制御するRNAプロセシング機構の一つである。その重要性から、pre-mRNAスプライシングは長らく静的なハウスキーピングプロセスと見なされてきたが、近年のRNA生物学の進展によって、そのダイナミクスと多面的機能性が改めて注目を集めつつある。私たちはこれまで、シロイヌナズナ突然変異体の解析を通して、植物細胞の柔軟な増殖・分化制御の分子基盤に関する研究を行ってきた。その結果、植物細胞の脱分化や分裂組織新生の進行には、スプライソソームのコア因子UsnRNPの生合成とそれによるpre-mRNAスプライシング活性制御が重要であることが明らかとなった。また、UsnRNP生合成異常は温度や塩といった環境ストレス応答異常を引き起こすこと、環境条件依存的なpre-mRNAスプライシングダイナミクス自体が、植物細胞における環境情報の分子化を担っている可能性を見いだしつつある。本セミナーでは、こうした最新成果を元に、pre-mRNAスプライシングを介した植物ならではの細胞機能発現調節戦略を考察したい。
参考文献
Ohtani et al. (2013) Plant Cell 25: 2056–2069
Ohtani et al. (2015) J Plant Res 128: 371–380
Ohtani M (2018) Front Plant Sci 8: 2184
Ishizawa et al. (2019) Plant Cell Physiol 60: 1974–1985
Chiam et al. (2019) Plant Cell Physiol 60: 2000–2014
大谷美沙都 (2017) 植物科学最前線 (BSJ Review) 8: 80–98

担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・附属植物園(杉山准教授)