第1325回生物科学セミナー
脳は「他者」をどのように表象するのか?
奥山 輝大 准教授(東京大学定量生命科学研究所)
2020年06月24日(水) 16:50-18:35 Zoomによるweb講義
※4月22日(水)開講から変更になりました。
ヒトを含めた社会を形成する動物は、集団内の他個体を記憶し、そのそれぞれに対して適切な行動を選択することで適応的に振舞っています。私たちの研究室では、脳がどのようにして他個体について記憶しているのか(社会性記憶)、そして、どのようにして行動出力に至るのかという神経メカニズを探索しています。特に、記憶中枢である「海馬」は、エピソード記憶を貯蔵する領域ですが、その中でも「腹側CA1」という領域のニューロンが、社会性記憶を貯蔵していることを報告しました。カルシウムイメージングによる生理学的な解析から、腹側CA1領域のニューロンは「細胞集団として」社会性記憶を保持しているという仕組みが推測されました。例えば、1番から10番までの神経細胞があるとすると、マウスAを思い出しているときには1、3、8番が興奮し、マウスBを思い出しているときには2、3、9番が興奮するといった具合です。そこで、その決まった細胞集団(例えば、1、3、8番)のみを光遺伝学的手法を用いて興奮させたところ、マウスAについての社会性記憶のみを特異的に操作することが可能になりました。今回のセミナーでは、この発見を足場にして現在私たちの研究室が取り組んでいる、自閉症スペクトラムの病態解明についても御紹介したいと思います。
参考文献
Okuyama et al., Science, 353:1536-1541 (2016)
Okuyama et al., Science, 343:91-94 (2014)
担当:東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻・細胞生理化学研究室(久保教授)