第1343回生物科学セミナー

ナノ・マイクロ空間を利用した生体分子の反応機構解析・探索

飯塚 怜 博士(東京大学 大学院薬学系研究科 生体分析化学教室 助教)

2020年03月09日(月)    14:00-  理学部1号館東棟 380号室   

シドニー・ブレナー博士が遺した言葉に,「科学の進歩は新しい技術,新しい発見,新しいアイデアに依存する.おそらくこの順番であろう.(Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order.)」がある.演者もこの信念のもと,生命科学・生物工学研究に資する技術の開発とともに,その実践に努めてきた.本講演では,その一端を紹介する.

(1) ナノ開口を用いた1分子蛍光イメージングによるタンパク質の反応機構解析
汎用されている1分子蛍光イメージング法(全反射照明法)では,溶液中に存在する蛍光標識分子が数十nMになると,エバネッセント場に常に蛍光標識分子が存在することになり,1分子イメージングが困難となる.演者はこの限界を打破すべく,ナノ開口基板を用いた1分子蛍光イメージング法に取り組んできた.ナノ開口基板は,ガラス上に金属薄膜を蒸着し,直径100 nm程度の開口を多数配列させたものである.開口の下側から光を照射すると,光は透過せず,開口底面近傍のみに極めて局在化したエバネッセント光が発生する.これを励起光とすることで,µM濃度の蛍光標識分子を溶液中に存在させながらでも1分子蛍光イメージングが実践できる.この1分子蛍光イメージング法を利用し,大腸菌のシャペロニンGroELの機能的な反応中間体や,摂動に応じて活性を変調させる酵素の姿の直接観察に成功した.

(2) 油中水滴を用いた機能性分子の探索・創出
マイクロスケールの流れでは,慣性力などの体積力に比べ,粘性力・界面張力などの表面力が支配的になる.このため,マイクロ流路内で油相の流れの中に水相を流入させると,極めて均一な大きさの油中水滴(油中に分散した水滴)を作製することができる.演者はこれをプラトッフォームにした「Gタンパク質共役型受容体に対するペプチドアゴニストを創出する方法」および「培養を介さずに微生物一細胞の酵素活性を評価し,その遺伝子を取得する方法」を開発し,その有用性を実証した.