岩崎研公開ラボセミナー

植物感染微生物の寄生性・共生性を規定する分子基盤

晝間 敬 博士(奈良先端科学技術大学院大学)

2020年01月14日(火)    10:00-  理学部3号館 310号室   

植物感染糸状菌の感染戦略は寄生から共生と多彩であり、 同一種であっても宿主環境によっては対照的な戦略をとり、寄生 (病原) 性と共生性の境は連続的であることが示唆されている。一方で、特定の菌株の系統ごとに比較して解析すると、寄生・共生どちらか一方の感染戦略を優先的にとることが多く、感染戦略の嗜好性は菌のゲノムや感染時の遺伝子発現応答の違いによって生まれていることが示唆される。 しかしながら、これまでは、寄生型および共生型の感染戦略を取る微生物は別々の研究分野で研究されていたことからも、両者の感染戦略を分かつ決定因子はこれまでほとんど明らかになっていない。   
発表者は、植物内に感染する糸状菌Colletotrihcum tofieldiae (Ct) が、様々な植物に病気を引き起こす炭疽病菌と近縁であるにも関わらず、貧栄養環境下でリンを植物に供給することで非菌根性のアブラナ科植物の植物生長を促す共生菌であることを発見している (Hiruma et al., Cell 2016)。 また、Ctは日本を含む世界中の多彩な植物種から単離されており、その中には共生菌に加え、同種であるにも関わらず同一植物の植物生長を著しく阻害する寄生菌が含まれることを見いだした。 本発表では、植物に感染する微生物の植物微生物相互作用を介した進化についての概要を紹介するとともに、上記の同種の菌株間での比較機能解析から見えてきた共生性と寄生性を分かつ分子基盤について紹介したい。