人類学演習Ⅳ/人類学セミナー4

縄文人骨の口腔衛生指標にみられる時期差・性差・環境差について

佐宗 亜衣子 先生(新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 理学療法学科)

2019年12月06日(金)    16:50-18:35  理学部2号館 201号室   

齲歯や歯周病を含むOral Paleopathologyは、人類の経済段階や社会構造の進展・転化とともに増加すると考えられてきた。すなわち、作物の栽培が開始された新石器時代以降、さらに、産業革命以降の精製した小麦や砂糖を多く含む食料の供給量が増えた時期や地域で増加することが報告されている。特に、齲歯の発生は糖質(炭水化物)の摂取と強く関連することから、齲歯率の上昇は農耕や栽培社会へ移行したシグナルの一つとされている。一方、日本列島における農耕開始時期については議論が進行中である。弥生時代以降のいわゆる渡来系集団によって水田稲作農耕がもたらされたという点についてはコンセンサスが得られているものの、近年植物考古学の研究が進み、縄文時代における植物利用について、栽培や原始農耕の開始をどう考えるか議論が続いている。これまでの縄文人の口腔衛生指標に関する研究では、縄文集団は狩猟採集民としては齲歯率が高いことが指摘されてきた。齲歯率は前期よりも中後晩期で高いという時期変化が示され、遺跡立地についても内陸部よりも沿岸部の遺跡で高い傾向にあると指摘されてきた。しかし、縄文時代を通して齲歯の変化を明確に示した研究はない。また、齲歯以外の指標についてはほとんど研究されておらず、縄文人の口腔衛生状態を総覧する研究はほとんど行われていない。本講では齲歯(caries)、生前喪失歯(AMTL)、咬耗、歯冠欠損(chipping)、セメントーエナメル境と歯槽縁間の距離による歯根露出度(CEJ-AC distance)、歯槽中隔の炎症程度(morphological assessment of the interdental septum)の6つの指標を用い、縄文時代における口腔衛生の時期変化、性差、遺跡の立地環境にともなう差異について検討を行った結果を論ずる。

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<今後の予定>
 12月 13日  未定
20日 勝村 啓史 先生
27日 松平 一成 先生