塩見研公開ラボセミナー

体細胞分裂から減数分裂への細胞周期の切替え機構

石黒 啓一郎 博士(熊本大学発生医学研究所 独立准教授)

2020年01月24日(金)    16:00-17:00  理学部3号館 326号室   

減数分裂は体細胞と同様の細胞周期の機構を転用しながらも、減数分裂仕様の染色体構造が再構成されるようにプログラムされている。体細胞分裂と比較した場合、減数分裂ではゲノム半数化の染色体分配を実行する“第一分裂”が挿入されている点が両者の本質的な相違を与えている。体細胞分裂から減数分裂への切替えが何によって制御されているのかという問題は、生物学の基本問題でありながら種を問わず長年の懸案とされていた。とりわけ変異体取得のような遺伝学的スクリーニングの適用が容易ではないマウス生殖細胞では、その分子機構の解明は国際的にも攻め倦んでいた。
最近我々は体細胞分裂から減数分裂への切替えを担う新規の核内因子を同定した。我々がMEIOSIS initiator (MEIOSIN)と名付けたタンパク質はHMG-likeドメインをもつDNA結合因子と推測されるが、ChIP-seqおよびRNA-seqを駆使した解析により減数分裂の開始に決定的な役割を担う転写活性化因子であることが判明した。この事実と符合して、Meiosin を欠損させた生殖細胞では体細胞型Cyclinの異所的発現やM期様染色体構造などmitoticな特徴を示す細胞の蓄積を伴って、減数分裂への進行が見られなくなる。したがってMEIOSINは体細胞分裂型の細胞周期の抑制と減数分裂プログラムの活性化とを協調する役割があることが示唆された。重要なことにMeiosin KOマウスでは見かけ生殖細胞の分化を正常に遂げているにもかかわらず減数分裂への切替えが見られない。このことは“減数分裂型の細胞周期”が生殖細胞の分化とは遺伝学的に分離されるプロセスであることを示唆している。