第1290回生物科学セミナー

葉緑体とミトコンドリアの分裂増殖機構の解明

吉田 大和(東京大学大学院理学系研究科・生物科学専攻)

2019年11月20日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

真核生物にとって極めて重要なオルガネラである「葉緑体(色素体)」と「ミトコンドリア」は、10億年
以上前に宿主細胞に共生した古代の自由生活性バクテリアを起源としている。このような進化的起
源をもつため、これらのオルガネラは細胞内でゼロから創り出すことはできず、分裂によってのみ数
を増やすことができる。これまでの研究から葉緑体とミトコンドリアの分裂は、それぞれリング状のタ
ンパク分子複合体である葉緑体分裂装置、ミトコンドリア分裂装置によって実行されることが分
かってきた13。我々は原始的な真核生物である単細胞紅藻シアニディオシゾン(通称シゾン)の
細胞から分裂装置を単離する技術を確立し、その構造と構成タンパク質を明らかにしてきた(4-6)。
現在は同研究をさらに発展させ、合成生物学的アプローチなどを活用して葉緑体とミトコンドリアの
分裂増殖機構をタンパク質一分子レベルから明らかにすることを目指すとともに78、様々なオル
ガネラの分裂増殖過程で起きる全ての分子機序「オルガネラ分裂増殖のセントラル・ドグマ」の解明
を目指している。これらの研究を通じて、オルガネラ、そして細胞が『増える』という生物共通の基本
原理を明らかにし、細胞生物学における新パラダイムの構築を目標としている。

参考文献
(1) Kuroiwa et al. (1998) Int. Rev. Cytol. 181: 1-41.
(2) Osteryoung and Nunnari. (2003) Science 302: 1698-1704.
(3) Yoshida and Mogi. (2019) Microscopy 68: 45-56.
(4) Yoshida et al. (2006) Science 313: 1435-1438.
(5) Yoshida et al. (2010) Sciecne 329: 949-953.
(6) Yoshida et al. (2017) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 114: 13284-13289.
(7) Yoshida et al. (2016) Nature Plants 2: 16095.
(8) Yoshida and Taniguchi (2019) Cytologia 84: 15-23.