第1315回生物科学セミナー

昆虫の生得的行動を制御する神経回路の活動依存的な可視化と操作

木矢 剛智(金沢大学・理工研究域・生命理工学系・生命システムコース)

2019年11月25日(月)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

昆虫は様々な興味深い生得的行動を示すにも関わらず、その神経基盤については不明な点が多く残されている。その大きな原因として、昆虫全般に用いることができ、行動と神経回路の関係を明らかにする方法が、確立されていなかったことが挙げられる。我々は神経活動に伴って発現量が増加する遺伝子(初期応答遺伝子)Hr38を新規に同定・利用することで、行動と神経回路の関係を明らかにする手法の開発を行ってきた(1)。最近、我々はショウジョウバエの遺伝学的手法を駆使することで、求愛行動時に活動した神経回路を可視化し、さらに光遺伝学的に操作する手法を確立した。また、本手法を用いた解析より、オスの求愛モチベーションを制御すると考えられる神経細胞群を同定した(2)。現在、カイコガでも活動依存的に神経回路を可視化できる遺伝子組換えカイコガを作出し、性フェロモン情報を処理する神経回路の解析にも取り組んでいる。本研究は、幅広い昆虫種で保存された神経活動マーカー遺伝子を同定した初めての例であり、Hr38を用いた神経活動の検出法は、今後、様々な昆虫が示す生得的行動を研究する上で強力なツールになると期待される。

参考文献
(1)Fujita et al. (2013) Curr. Biol. 23(20):2063 70.
(2)Takayanagi Kiya and Kiya (2019) PNAS 116(12):5715 5720.