岩崎研公開ラボセミナー

世界広域からのサンプリングで解き明かすフタバカゲロウ属 Cloeon の系統関係と特殊な発生システム

谷野 宏樹 氏(信州大学 総合医理工学研究科 博士課程)

2019年12月13日(金)    13:00-  理学部3号館 326号室   

 昆虫類は極めて多様な形質をもつ分類群ではあるものの,その発生システムに関しては保存性が高く,大半は「卵生」です。中には,「卵生」が特殊化した「卵胎生」や,最も特殊化を果たしたとされる「胎生」も知られています。我々はまず,カゲロウ類の中でも特殊な「卵胎生」であるフタバカゲロウ属の系統解析を実施しました。特に北米,欧州から東アジアにまで分布するフタバカゲロウ Cloeon dipterum については,日本列島と朝鮮半島に分布する系統が,他地域の系統と遺伝的に大きく分化していることを示しました。また,並行して実施している組織化学的研究から,日本列島のフタバカゲロウは卵内にタンパク質性卵黄がなく,母体から卵への栄養供給をしている「胎生」昆虫であることも示唆されています。また,従来昆虫で報告されてきた,どの胎生タイプとも異なる可能性が高いことが分かってきました。さらに我々は,発生率・孵化率の観察や遺伝子発現解析を通じて,「胎生」の進化的意義や栄養供給システムの究明を目指しています。本セミナーでは,フタバカゲロウで発見された新規「胎生」システムについて,これまで蓄積してきた知見を紹介させていただきます。