第973回 生物科学セミナー

植物機能のリモートセンシングとその応用―細胞から群落へ、2次元から3次元へ

大政 謙次(農学生命科学研究科)

2014年04月23日(水)    16:40~      

リモートセンシングは対象を遠隔から計測する技術であり、その進歩には著しいものがある。これは、センサなどの要素技術の進歩に加えて、センサを搭載するプラットフォームや情報通信技術(ICT)などの進歩によるところが大きい。そして、例えば、地球観測の分野では、人工衛星や航空機などの広域リモートセンシングだけでなく、地上観測による検証を含めた階層的リモートセンシングへと発展してきている。また、農業分野では、ICTを仲介として、気象や土壌などの環境情報や作物情報を計測し、知識ベース化とクラウドコンピューテイングにより、生産段階だけでなく、流通や消費段階でのイノベーションに利用しようというスマート農業、アンビエント農業への期待がある。その際、非破壊、非接触のバイオイメージング(リモートイメージング)を含めた植物機能リモートセンシングの重要性が認識されている。さらに、植物科学の分野でも、遺伝子・細胞のレベルから、個体レベルまでを対象としたバイオイメージングの研究が盛んに行われており、最近では、この中でも特に、植物機能リモートセンシングの技術を用いて、植物のもつ表現型(Phenotype)を遺伝子型と環境の両面から研究し、植物科学の分野だけでなく、育種や栽培、環境管理などに生かしていこうという植物フェノミクスの研究が世界的に注目されている。ここでは、これらの分野に関連する植物機能リモートセンシングについて筆者らの研究を中心に簡単に述べるとともに、植物診断やフェノミクスの研究への展開について紹介する。


参考文献
1) 大政他編 (1988) 植物の計測と診断 朝倉書店
2) Omasa, K(1990)Image instrumentation methods of plant analysis. In Modern Methods of Plant Analysis. New Series, Vol.11. (H.F.Linskens and J.F.Jackson, eds.) pp203-243 Springer-Verlag.
3) 大政他監訳 (1993) 生物圏機能のリモートセンシング(RJ Hobbs and HA Mooney編) Springer. 
4) Omasa, K, et al. (eds.) (2002) Air Pollution and Plant Biotechnology. Springer-Verlag.
5) 大政他編 (2003)「地球温暖化ー世界の動向から対策技術までー」遺伝別冊17号 裳華房.
6) Omasa,K, et al. (2007) 3D lidar imaging for detecting and understanding plant responses and canopy structure. J. Exp. Bot. 58:881-898.
7) 大政編 (2007) 農業・環境分野における先端的画像情報利用. 農業電化協会. 
8) Furbank, RT (ed.)(2009) Special Issue: Plant Phenomics. Funct. Plant Biol. 36:845-1026.
9) 大政 (2012) 環境科学と「生物環境調節」植物環境工学 24(3):142-149.
10) 久米・大政監訳 (2013) 植生リモートセンシング(HG Jones and RA Vaughan著) 森北出版.