第1268回生物科学セミナー
ネムリユスリカの極限乾燥耐性のしくみ
黄川田 隆洋 上級研究員(農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門)
2019年10月30日(水) 16:50-18:35 理学部2号館 講堂
アフリカの半乾燥地帯に生息するネムリユスリカの幼虫は、カラカラに干からびても死に至ることは無い。1年以上乾燥させ続けた幼虫に真水をかけるだけで、1時間もしないうちに、何事も無かったかのように成長を再開する。この乾燥幼虫は、極低温や100℃の高温、7 kGyのガンマ線照射、アセトンやエタノールへの浸漬などに耐性を示す。果ては、宇宙空間に2年半放置しても、蘇生能力を維持し続けていた。このような極限的な乾燥耐性をもたらす分子背景として、トレハロースやLEAタンパク質と呼ばれる乾燥保護因子の存在や、高度なDNA修復系の発現などが、重要に関与している。最近では、Pv11と命名した、この昆虫から樹立した培養細胞にも極限的な乾燥耐性が誘導可能であることがわかった。本セミナーでは、ネムリユスリカの極限乾燥耐性の分子背景について、最近のトピックを中心に紹介したい。
参考文献
ネムリユスリカのふしぎな世界 黄川田隆洋 ウエッジ選書 2014