第1003回 生物科学セミナー
高等植物における硝酸シグナルの伝達と応答の分子機構
柳澤 修一 准教授(東京大学生物生産工学研究センター)
2014年11月12日(水) 16:40-18:10 理学部2号館 講堂
陸上植物では土壌中の硝酸イオンが主たる窒素源となっている。植物に取り込まれた硝酸イオンはアンモニウムイオンへと還元された後、GS/GOGATサイクルによってアミノ酸へと同化される。一方で、硝酸イオンはシグナル伝達物質としての役割も示唆されており、硝酸投与後すぐさまに硝酸同化関連遺伝子を中心に多数の遺伝子の発現が誘導されることが知られている。また、硝酸シグナルは地上部と地下部の割合や根のアーキテクチャーにも影響を及ぼすと考えられている。これまで,硝酸応答型の遺伝子発現の分子メカニズムは未解明であったことから、我々の研究グループでは、それの解明を目指し、シロイヌナズナを用いて、硝酸応答のためのシス配列とそれに作用する転写因子の同定を行なってきた。その結果として、硝酸応答の実体を担う転写因子は、NIN (NODULE-INCEPTION)-like proteins (NLPs)と呼ばれる転写因子であることを明らかにしてきた。NLPは硝酸シグナルの伝達を受けて翻訳後制御によって活性化が誘導される転写因子であることや、NLPは硝酸トランスポーター遺伝子、硝酸還元酵素遺伝子、プラスチド局在型の亜硝酸トランスポーター遺伝子、亜硝酸還元酵素遺伝子など硝酸同化に関わる一連の遺伝子の発現を直接的に制御していることが判明してきている。さらに、キメラリプレッサーを用いてNLP活性を抑制すると、硝酸投与に応答した遺伝子発現の大部分が抑制され、NLPは硝酸応答のマスターレギュレーターとして働いていることもわかってきた。最初に同定されたNIN/NLPファミリーの因子は、根粒形成において必須な因子として遺伝学的に同定されたNINであったが、NINは硝酸応答性を失っており、NINは根粒形成に特化したNLPのバリアントであると見られた。本セミナーでは、高等植物における硝酸シグナルの伝達と応答の分子機構について概要を紹介するとともに、NIN/NLPファミリーの分子進化について若干の考察を行う。
参考文献
Emergence of a new step towards understanding the molecular mechanisms underlying nitrate-regulated gene expression. J. Exp. Bot., in press. eru267. [Epub ahead of print]
Arabidopsis NIN-like transcription factors play a central role in nitrate signalling. Nat. Commun., 4:1617.