第1300回生物科学セミナー

①ゼブラフィッシュにおける、母性FGFによる神経誘導のコンピテンス獲得のメカニズム ②弱電気魚、ブラントノーズナイフフィッシュの筋肉系電気細胞の発生の仕組み

工藤哲大博士(College of Life and Environmental Sciences, University of Exeter, UK)

2019年09月02日(月)    16:50-18:30  理学部2号館 第4講義室   

①ゼブラフィッシュの胚発生は、受精卵に蓄えられた母性増殖因子や転写因子によって開始し、その後胞杯期のMaternal-Zygotic Transition (MZT)より胚の遺伝子の転写が活性化し、新たに作られた増殖因子や転写因子によってさらなる発生が進行する。そのような胞杯期以降の遺伝子の発現と機能については、さまざまな解析がなされ、細胞系譜の決定と分化の仕組みがあきらかとなってきたが、それ以前の母性因子による初期発生の調節の仕組みについては未だ不明な部分が多い。本研究では、卵に蓄積された母性FGF/FGF 受容体のシグナル経路の胚発生への役割を明らかにした。
FGF 受容体阻害剤SU5402 をMZT 以前に投与した胚は頭部の神経誘導が抑えられた。それらの胚の遺伝子発現調節の仕組みを、RNAseq, ATACseq, ChIPseq などの次世代シーケンサーを用いた手法で解析したところ、FGF シグナル経路が幹細胞因子Sox2 とDNAの結合を調節することにより、受精後の卵割細胞を神経細胞に分化可能なコンピテンスを持った幹細胞に発達させるメカニズムがあきらかになった。
② ブラントノーズナイフフィッシュ(Brachyhypopomus gauderio)は南米に生息し、電気ウナギに系統が近い小型の夜行性魚類の一種である。電気ウナギ同様発電器官(electric organ)により発電し、水中に放電して、暗闇でも周囲を探知し、また個体間のコミュニケーションをとり、夜間に生殖、産卵する。我々はこの種の胚と幼生を用いて発電器官の発生の仕組みを解析した。発電器官は魚の尾部の腹鰭と筋肉の境界に発達し、通常の細胞の数百から数万倍の大きさの多核細胞、電気細胞(electrocyte)によってつくられる。我々は、発電器官の前駆細胞が胚の尾部の体節筋肉組織の腹側から発生することを見出した。前駆細胞郡は骨格筋ミオシンを弱く発現し、筋幹細胞マーカーPax7 を強く発現することから、筋肉の前駆細胞の一部が発電細胞に分化することが示唆された。これらの前駆細胞は、幼生の発生期に体節筋肉組織より腹側の鰭の中に向かって移動し、移動するごとに新たな発電細胞が1日あたり約一対左右に並んで発生することがわかった。これらの発電細胞の配置は、体節の境界線とは関連が見られず、体節形成以後に前駆細胞と鰭の組織の相互作用により発電細胞が発生することが示唆された。