塩見研公開ラボセミナー

宿主自然免疫システム活性化における内在性レトロウイルスの潜在的機能

大谷 仁志 博士(VAN ANDEL RESEARCH INSTITUTE)

2019年07月16日(火)    11:00-12:00  理学部3号館 326号室   

DNA メチル基転移酵素阻害剤である5-アザシチジンは、血液腫瘍治療の第一選択薬として
用いられている。しかしながら、5-アザシチジンの抗腫瘍効果はおよそ半数の患者に限られており、
その作用機序も完全には解明されていない。近年の研究から、5-アザシチジン投与により発現上昇
した内在性レトロウイルスの転写産物が、宿主の自然免疫系を活性化し、がん細胞にアポトーシス
を誘導するのではないかということが分かってきている。内在性レトロウイルスが外来性レトロウ
イルスに似た作用を示すこの経路は、”Viral mimicry”と呼ばれているが、ゲノム上に散在する
約50 万コピーの内在性レトロウイルスの内、どの種がそのトリガーとなっているのかは明らかと
されていなかった。そこで我々は、ヒト結腸腺ガン由来の培養細胞HCT116 における、内在性レト
ロウイルスのエピジェネティックな制御機構の遷移を、その進化的年代に沿って調査し、宿主自然
免疫系の活性化との関連性を評価した。宿主自然免疫系の活性化と、進化的に若い内在性レトロウ
イルスの発現上昇の間には相関が認められたが、進化的により古いものと間には認められなかった
(Ohtani et al., Genome Research. 2018)。同様の結論が血液腫瘍患者を用いた解析からも得られ
ており、進化的に若い内在性レトロウイルスの転写産物が宿主自然免疫系活性化のトリガーである
と推察された。5-アザシチジンの投与は、自然免疫系活性化に関与する遺伝子群に限らず、多種の
遺伝子群の発現変化をも促すことから、副作用のリスクも懸念されている。これら進化的に若い内
在性レトロウイルスの特異的な発現誘導は、より効率的でリスクの低いがん治療を行う事を可能に
するのではないかと考えている。