人類学談話会(臨時開催)

ヒトの女性の配偶者選択は個人の生活史を通じて変化するか?:ボツワナの農牧民Kgatlaの配偶行動の個人差から

寺本 理紗 さん(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻)

2019年05月29日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 402号室   

ヒトの女性の配偶者に対する好みは、出産後に変化することが知られているが、そうした好みの変化がその後の実際の性行動にどのような影響を及ぼしているのかは明らかではない。哺乳類であるヒトの女性は、出産・頻回授乳・子育てを通じて男性よりも多くの養育努力を子どもに投資してきた。そのため、女性の場合は出産後に配偶努力から養育努力へのエネルギー投資量のトレードオフがおこり、進化の様々な段階を通じて子育てに協力してくれそうな男性をより好むようになる可能性が考えられる。
しかし、ヒトの女性の場合、配偶者に対する好みと好みの変化が、実際の配偶者選択の際にどの程度反映されているのかについては研究が少ない。ボツワナの農牧集団Kgatlaの女性は、出産後に配偶者を選択するという再配偶(re-mating)傾向にあることが人類学の調査によって知られている。このような配偶パターンの社会において、2回目以降の配偶者選択はどのような基準に基づいておこなわれるのを解明することで、個人の生活史が(再)配偶の選択に影響するかどうかを明らかにすることができる。
本発表では、ボツワナでのフィールドワークによって、実際に得られた性行動のデータから紹介する。結果として、女性の子どもの数に対応する父親の数は1—3+とばらつきがあり、何度も相手を変える女性と変えない女性が同集団内に混在することが確認された。発表では、2回目以降の配偶について、女性の配偶者の好みではなく、どのような男性との配偶を回避しているのかを検討した結果も報告する。また自分の子どもへの養育努力の高さを配偶者選択の基準とすることが、インセストアボイダンスの失敗につながる可能性についても議論する。