第1264回生物科学セミナー

光合成をやめた植物「菌従属栄養植物」のしたたかな生存戦略

末次 健司 講師(神戸大学大学院理学研究科)

2019年07月03日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

陸上植物の多くは菌根菌と共生しており、土壌の無機塩類と光合成産物を互いにやり取りする相利共生の関係を成立させている。しかしながら、植物の中には、光合成をやめ、菌根菌から養分を騙して貢がせるという特異な進化を遂げた菌従属栄養植物が存在する。
 植物を特徴づける重要な形質が光合成にあることを考えると、こうした菌従属栄養植物の進化過程を明らかにすることは、植物学においても重要な課題といえるだろう。しかしながら菌従属栄養植物は、開花、結実期以外は地上に姿を現さないため、分布情報すら明らかになっていない種が多く、その研究には困難が伴った。このような課題を解決するため、私は精力的なフィールドワークや分類学的な整理を行い、菌従属栄養植物の研究に必要な土台を築いてきた。その結果、菌従属栄養植物は、菌根菌との関わりのみならず、送粉共生や種子散布共生といった一見関係ないように思える地上部での生物との共生関係までも柔軟に変化させていることを明らかになってきた。こうした菌従属栄養性獲得の過程で起こった形質進化の例をいくつか紹介するともに、それらを可能にした至近メカニズムを解明に向けた将来的な展望について議論したい。

参考文献
Suetsugu K (2018) Achlorophyllous orchid can utilize fungi not only for nutritional demands but also pollinator attraction. Ecology 99: 1498–1500.
Suetsugu K (2018) Independent recruitment of a novel seed dispersal system by camel crickets in achlorophyllous plants. New Phytologist 217: 828–835.
Suetsugu K, Yamato M, Miura C, Yamaguchi K, Takahashi K, Ida Y, Shigenobu S, Kaminaka H (2017) Comparison of green and albino individuals of the partially mycoheterotrophic orchid Epipactis helleborine on molecular identities of mycorrhizal fungi, nutritional modes, and gene expression in mycorrhizal roots. Molecular Ecology 26: 1652–1669.
Suetsugu K, Kawakita A, Kato M (2015) Avian seed dispersal in a mycoheterotrophic orchid Cyrtosia septentrionalis. Nature Plants 1: 15052.