第1261回生物科学セミナー

ゼニゴケを用いて陸上植物の有性生殖を探る

荒木 崇 教授(京都大学生命科学研究科)

2019年06月12日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

コケ植物は最初に陸上に進出した植物であり、近年広く研究に用いられるようになったゼニゴケMarchantia polymorphaはそのうちの苔類を代表するモデル植物である。植物は陸上進出に先立ち、卵と精子による有性生殖(卵生殖)や配偶体世代と胞子体世代の世代交代をはじめとする陸上植物の生活環の基本的な特性を獲得したと考えられる。われわれは、ゼニゴケを用いてコケ植物の有性生殖の制御機構を明らかにし、それを被子植物(シロイヌナズナやイネなど)の知見と比較すること、さらに、陸上植物の姉妹群であるシャジクモ植物との比較も試みることで、陸上植物の有性生殖の基本的な枠組みを理解したいと考えて研究を進めてきた。
われわれが現在おもに関心を持っているのは、(1)光などの環境情報をもとにした生殖開始の季節応答、(2)生殖系列の決定過程、(3)配偶子(特に雄性配偶子)の形成過程などである。これらのうち(2)と(3)の過程は、配偶体世代が大幅に短縮・単純化している被子植物では、そのために却って理解が難しくなっている側面もあるように思われる。そのため、コケ植物のように配偶体世代が優勢な植物に見られる、単純化する前のより複雑な過程を理解することには独自の利点があると考えている。本セミナーでは、そのような観点から進めてきたゼニゴケにおける雄性配偶子(精子)形成過程についての研究を、被子植物やシャジクモ植物との比較も含めて紹介する。また、最近になって研究に着手した生殖開始の季節応答の研究についてもその展望などを紹介したい。

参考文献
Higo, Kawashima et al. (2018) Nat. Commun. 9, Article number: 5283.
Higo et al. (2016) Plant Cell Physiol. 57, 325-338.
Inoue, Nishihama, Araki, Kohchi (2019) Plant Cell Physiol. 60 (in press, DOI: 10.1093/pcp/pcz029)
Bowman, Kohchi, Yamato et al. (2017) Cell 171, 287-304.
遠藤 求, 久保田 茜, 河内孝之, 荒木 崇 (2014) 植物の生長調節 49, 49-58.
荒木 崇 (2013) 植物科学最前線 (BSJ Review) 3, 134-158.