第1259回生物科学セミナー

評価法の発展が促す受精の素過程の再考

佐藤 裕公 准教授(群馬大学 生体調節研究所)

2019年05月22日(水)    16:50-18:35  理学部2号館 講堂   

受精は、卵子と精子が融合する以外にもいくつかの独立した素過程から成り立っている。その方式は生物種によっても異なり、まだまだ不明な点が多い。しかし、共通して言えるのは、受精の結果生れるのが受精卵という1つの細胞であり、受精と初期発生が生命の連鎖の中の最大のボトルネック過程であるということである。すなわち、素過程や分子メカニズムになんらかの許容できない変化が生じた場合、その受精卵は発生せず産仔は得られない。一方で、その変化が生命にとって許容できるものだったら、産仔の表現型に全身性の影響を及ぼす可能性があり、これが遺伝子の変異等であれば、子々孫々に渡って影響は残ることになる。
我々はここまでに、主にマウスの卵子と精子を材料に、イメージング技術と遺伝子操作動物とを用いて、受精の生物学における未解決課題について研究して来た。本セミナーでは、中でも精子と卵子の融合を司る分子の機能解析、精子が卵子の細胞周期の再開を促す活性化因子の同定、そして卵子活性化と初期発生を定量化して評価する試みなどに関する進展を解説する。また、哺乳類の受精や初期発生に関する考え方が今後どのような転換を迎えるつつあるのか、そして、受精卵の評価の重要性や可能性について議論したい。

参考文献
・Satouh, Y. and Ikawa, M. (2018) New Insights into the Molecular Events of Mammalian Fertilization. Trends Biochem Sci 43 (10), 818-828.
・Nozawa, K. et al. (2018) Sperm-borne phospholipase C zeta-1 ensures monospermic fertilization in mice. Sci Rep 8 (1), 1315.
・Satouh, Y. et al. (2017) Viable offspring after imaging of Ca2+ oscillations and visualization of the cortical reaction in mouse eggsdagger. Biol Reprod 96 (3), 563-575.
・Kato, K. et al. (2016) Structural and functional insights into IZUMO1 recognition by JUNO in mammalian fertilization. Nat Commun 7, 12198.