第1258回生物科学セミナー

生命系におけるタンパク質化学修飾解析の新アプローチ

末武 勲  教授(甲子園大学栄養学部 栄養学科)

2019年03月28日(木)    17:00-18:00  理学部1号館東棟 380号室   

これまでに、DNA配列に依存しない遺伝子発現制御として、エピジェネティクスが知られている。それには、ヒストン修飾、DNA修飾の関与が明らかにされている。これまで、その研究手法としては、特異的抗体を用いた研究や、修飾を導入する酵素または修飾を外す酵素のノックアウトの解析が主であった。加えて、ヒストン修飾認識機構については、それらほとんどが修飾ペプチドを用いた成果であり、核内でのヒストンの存在状況(高次構造)を反映させた研究は多くなく、他の修飾との関連性は明らかにされることは少なかった。その理由は、修飾タンパク質の用意の困難さにある。

 私は、およそ15年以上前から、有機化学の研究室(阪大 北條研究室)との共同研究をはじめ、特異的なアミノ酸に特定の修飾を施したヒストンを含むヌクレオソームを試験管内で再構成した。その結果、いくつかの重要な知見を見出すことが出来た。具体的には、古くから知られているヘテロクロマチンタンパク質1(HP1)は、これまで知られている修飾認識ドメイン以外にも、分子内に認識に影響を与える領域の存在、さらにアイソフォーム特異的な結合を見出した。

 一方、様々な合成修飾ペプチドをスクリーニングすることで、DNAメチル化との関連性を報告した。最も重要な発見は、DNA維持メチル化活性を強く亢進する修飾として、ユビキチン化ヒストンを見出したことである。今後、この研究を他の修飾(生体では制御が厳しく、微量でほぼ検出できない修飾など)の機能解析に展開すると、新研究の扉を開けることができると期待している。本発表にて、生命科学研究と有機化学との共同研究の重要性・将来性について議論したいと考えている。