第1257回生物科学セミナー

300kV CFEG cryo-EMによる電子線三次元結晶構造解析と高分解能単粒子解析

米倉 功治 (Ph.D.)(理化学研究所 放射光科学研究センター)

2019年03月07日(木)    13:30-14:30  理学部1号館東棟 380号室   

電子線はX線に比べて試料との相互作用が10万倍も強い。この特性が蛋白質一分子の観察ができる最大の理由で、近年のcryo-EMによる単粒子解析の爆発的な発展に繋がっている。一方、crystallographyでの利点も大きく、X線回折能の不足している微小で薄い結晶からの構造決定や、荷電による散乱能の違いを利用した電荷分布解析への応用も期待できる。今後、この技術、電子線三次元結晶構造解析(MicroEDとも呼ばれる)は、単粒子解析の適用が難しい分子量数万程度の膜蛋白質や、創薬ターゲットとなる中分子の有望な解析手法になるであろう。半面、位相問題、試料の厚みの制限、データの取得できない領域が残るミッシングコーンの問題、電子線散乱因子の取り扱い等乗り越えるべき課題は多い。
 我々は、新型の電子顕微鏡CRYO ARM 300を、電子線三次元結晶構造解析と高分解能単粒子解析の両者に最適なようデザインし、昨年7月から本格的な運用を開始した。搭載されている冷陰極電界放射型電子銃(cold-field emission electron gun; CFEG)は時間的コヒーレンスの高い電子ビームを発生し、これにより高分解能信号の減衰を最小に抑えることができる。また、12個の凍結試料のオートローダーを備えた高精度の回転ステージと電子分光装置は、高品質の三次元回折データの取得を可能にする。我々の開発したGUIソフトを併用することで、結晶の回転測定と像自動撮影のユーザビリティを大幅に改善できる。セミナーでは膜蛋白質の多型構造解析、電荷、プロトネーション状態の可視化等も含め、我々の取り組みについて紹介したい。